〈独白する三兄弟が超怖い〉
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お腹がすいています
仕事の打ち合わせを終えて、家まで歩いて帰ってみる。
まだ海のものでも山のものでもないネタを練りつつ、
夜の底を這いまわる。このところ〈ネガこだま〉ばっかり
反響していた頭のなかに、物語が蠢動しているのがわかる。
そうだ、またイチから起こさなきゃならない。
幕間の時間は、そうはない。


松村兄は道端でロダン化していたようですが、僕は道で食べ物をもらったことがありました。
それを徒歩の帰宅で思い出しました。ちょうど通りすがった信濃町のトンネルで。

二十代前半。
押しも押されぬドサンピン、下っ端のパのパだった僕は
撮影後にこのトンネルに置き去りにされたことがあった。
なんやかんやのトラブルで移動車両に人が乗りきれない
事態になり、一度行って戻ってくる車を荷物番しながら
待つことになったのだ。
僕は一人、疲弊の脂にまみれて、
トンネル内の避難地帯のようなところに座して待った。
高圧ナトリウム灯の橙色の光があたりを照らすなか、
路面でヒッ潰れた軍手の片われかボロ雑巾の気分で、
このまま置き去りか? というようなことを何遍も思った。
僕がいなくても撮影現場は回る。そのくらいの下端だったから、
このまま忘れられちゃうか。
あるいは、おぼえていてなお黙殺されるか。
そういう不安につきまとわれて、しかたない。

「むああ」とか「もあー」とか声を響かせて遊んでいた。
ハローキティとミッフィーの違いをえんえん考えたりした。
たぶん半泣きだった。

そんな折、ふいに彼女らは現われた。
ウォーキングとかしてるかんじのオバさん集団である。
オ1「お腹がすいていますか?」
僕「はい?」
オ2「大きな声で言ってごらんなさい。お腹がすいている、と」
僕「…お腹がすいています」
オ3「もっと大きな声で。トンネルに響くくらいに」
僕「…お腹がすいています。僕はお腹がすいているんです!」
オ1~3「もっと。 もっと大きく!」
と、そんなような会話があったかどうかはおぼえていない。
オバたちは「はい、これ」とペラ一枚のビラと、そしてラップに包んだ
おにぎりを僕の掌に持たせた。
…配給?
小汚い風体ではあったが、野営者に間違えられるのは心外だ。
と思いつつもそうは言わず、僕は素直におにぎりを受けとった。
オバたちが去った後にビラを見ると、「四谷おにぎり仲間」とあった。
福祉活動の一環で、野営者に手製のおにぎりを配っているのだという。
まもなくやってきた迎えの車の助手席で、僕はラップを剥いておにぎりを囓った。
おにぎりは硬握りというのか、妙にコメが冷たく固まっていて、あまり美味くなかった。
僕はぜんぶ食べた。

あれから数年。
何度かこのあたりを彷徨したが、「四谷おにぎり仲間」には遭遇しない。
ことほど斯様に、真夜中には奇妙な人びとが蠢き、片時だけ袖を擦りあえる。
あのイマイチだったおにぎりの味をもう一度、確認したい気もするけれど、
たぶんそれは叶わないんだろう。

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